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天国からのラブレター ドラマ04

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孫モノローグ(以下M)「その手紙が我が家に届いたのは一週間前のことだった」

孫「おじいちゃん。おじいちゃん宛の手紙が来てるよ」

祖父「わしに手紙? どうせ句会の誘いか金の無心か、ろくな手紙じゃあるまい」

孫  「テーブルの上に置いておくよ」

祖父「はいはい」

孫M「その日から、どうもおじいちゃんの様子がおかしい。縁側で一日中ぼんやりと空を見ていたり、好きなテレビの時間になっても居間にいなかったり、夕飯にほとんど口をつけなかったり。ときどき人生に疲れたような深いため息までついている。これではまるで…」

母  「失恋したときのあんたと一緒じゃない」

孫  「ええっ? 何言ってんの?」

妹  「ほんと、彼氏にフラれたときのお姉ちゃんそっくり」

孫  「やめてよ、私はね、痴呆がはじまったんじゃないかって心配してるの」

孫M「まさか八十七歳のおじいちゃんが失恋なんてことはないだろう。しかし心配だ。様子がおかしいのはきっとあの手紙が原因に違いない。まさか本当に…」

祖父「手紙? 何のことだろうな」

孫  「こないだおじいちゃんに届いたやつ。あれ、何だったの?」

祖父「いやべつにたいしたもんじゃない」

孫  「まさか、ラブレターとか?」

祖父「なな、何を言ってんだお前は。ラブ、ラブ、ラブ…馬鹿言うんじゃないよ」

孫M「この狼狽えよう。ひょっとして…図星?」

祖父「…誰にも言うなよ」

孫  「うそ、ほんとにラブレター?」

孫M「おじいちゃんは箪笥の引出しから大切そうにその手紙を取り出しすと、亡くなったおばあちゃんの写真が飾ってある仏壇の扉をぴたりと閉め、私をこそこそ縁側に連れ出した」

祖父「わしがまだ十八の時。ばあさんと出会う前の話だ。誰にも言うなよ」

孫  「うん」

祖父「戦争に行く前、実はわしには彼女がいてな」

孫  「うそっ。じゃあ、この手紙をくれたのはその人?」

祖父「まあ話を最後まで聞け。わしらは戦争から無事に帰ってきたら一緒になろうと約束をしとった。でもな、戦争から生きて帰ったら、その人はもう別の誰かと結婚をしていた。映画みたいな話だろう。でもな、戦争の後ってのはそういうことが本当にあったんだ。いやいや、あのときは本当に悔しかった」

孫  「へー。で、その人が、なんで今頃おじいちゃんに手紙を?」

祖父「うん…わしが戦争から無事に帰ってきたのは知っていたそうじゃ。でもあちらさんはもう結婚をしていたから、その相手の手前、わしとは会うことも電話で声を聞くこともできなかった。だからこうして、今になって手紙を書いたんだとさ」

孫  「すごーい。ずっとおじいちゃんのこと想い続けていたんだ。それでそれで?」

祖父「それだけだよ」

孫  「え、それだけ? 私にも読ませてくれる?」

祖父「(何か拒絶を)」

孫  「なんで、いいじゃんいいじゃん、ちょっとだけ」

孫M「おじいちゃんは、少しためらってから封筒から便箋を取り出すと、書き出しを読み上げた」

祖父「(咳払いをして)、『このたび、私はその日を迎えることになりました』」

孫  「それって…」

祖父「天国からの、手紙だよ。いつか一目でいいからもう一度会いたい、ずっとそう思っていたけれど、もう会えないと分かった。治らない病気が見つかって、病院から出ることも、歩くことすらできない。だからこうして手紙を書きます、とさ。あのときは、わしが先に逝くもんだと思っていたけどな…」

孫  「…」

祖父「なあ、めぐちゃん、わしがぽっくりいったら、そのときはこの手紙を頼むな」

孫  「棺に一緒に入れればいいの?」

祖父「こんなもん、ばあさんのとこに持っては行けんよ。あいつは焼き餅焼きだからなあ。そうだな、こっそり、燃やして捨ててくれ」

孫  「…わかった」

孫M「祖父はそれからしばらく、ひとりで縁側に座ってお酒をちびちび飲んでいた。丸まったその背中はとてもさびしそうだった。でも、私はちょっとだけ、そんなおじいちゃんのことを羨ましく思った。私もいつか、誰かにとっての、一生忘れられない大切な人、になれるだろうかと」

製作・著作:BSN新潟放送
制作協力:劇団あんかーわーくす
脚本:藤田 雅史(ふじたまさし)

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