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姉モノローグ(以下M)「半年前、元気だった父が突然この世を去った。会社を定年退職したばかり。これから夫婦でゆっくりと老後を過ごす、そんな話をしていた矢先の交通事故だった。母はひどく落ち込み、まだ、父の死を受け入れられないでいる。私と妹は、ときどき交代で実家に顔を出し、母の様子をお互いに報告し合う。そんなある日―」
妹 「ねえ、お姉ちゃん聞いて。お母さん、お父さんの遺骨を外国に送ったんだって!」
姉 「は?」
妹 「ダイヤがどうとかって。お母さんどうかしちゃったんじゃないかなー」
姉 「どういうこと?」
姉M「よく聞くと、母は、遺骨からダイヤモンドを製造する外国の会社に、父の遺骨を送ったのだという」
姉 「なんでダイヤモンドなんかに」
母 「相続のことで銀行に行ったときね、ロビーの雑誌でたまたま記事を読んで…」
姉 「それで申し込んじゃったの?」
母 「あんたたちに言うと、また反対されると思ったから…」
妹 「てか、なに勝手に決めてんの? お母さんだけのお父さんじゃないじゃん。お父さんの遺骨は家族みんなのものじゃないの?」
母 「そうだけど…」
姉M「私も妹も、納得がいかない。勝手に遺骨をどこかに送ってしまったことも、ダイヤモンドにすることも。死んだ父だって、いまさら自分の骨をキラキラ輝くダイヤモンドになんてされたくないだろう。無口で物静かで、野球中継しか興味がない父に、ダイヤなんて似ても似つかない。父の性格からすれば、宝石どころか、せいぜい庭石がいいところだ」
母 「私、間違ったことしちゃったかね…」
妹 「決まってるじゃん。今からキャンセルしてよ!」
母 「でもねえ…」
妹 「なによ」
母 「お父さん、ああいう人だったから、一度も私にアクセサリーを買ってくれたことがないのよ。結婚指輪も買ってくれなかったのよ。だからね、最後に…と思いついちゃって」
姉 「お母さんの気持ちもわからないではないけどさ、でも相談ぐらいすべきでしょ」
妹 「ていうか、お母さんにダイヤなんて全然似合わないよ」
母 「…」
姉M「それからしばらくして、父の遺骨から作られたというダイヤモンドが届いた。でもそれは、私たちの考えていたような、キラキラと光り輝くダイヤモンドとは少し違っていた。切り出したばかりの荒削りな原石のような、深い青色をした小さな石。それは、派手なことが苦手で、無口で、無骨な性格の父の姿になんだかよく似ていた。しわしわの母の手のひらにのせると、それはまるで本物の父のようだった」
母 「なんだか、座布団にちょこんと座ってナイターを見ているときのお父さんみたいだね」
姉M「それを見つめる母は、ようやく父の死を認めたような、そんな穏やかな顔をしていた」
母 「ゆりちゃん、ももちゃん、ごめんね、勝手にこんなことして。でもね、私はちゃんと、このお父さんのダイヤモンドを大切にするから許して」
姉 「私はいいけど…(妹を伺う)」
妹 「ていうか、それ、指輪にすればいいじゃん」
姉M「妹はまだちょっと怒っているような顔で言った」
妹 「石だけあってもしょうがないし。そうすればお母さん、お父さんといつも一緒にいられるよ。…ほら、ちょっと遅くなっちゃったけど、結婚指輪ってことにすればいいじゃん」
姉M「そう言って父のダイヤモンドを見つめる妹の瞳には、小さな涙がキラキラ輝いていた」
製作・著作:BSN新潟放送
制作協力:劇団あんかーわーくす
脚本:藤田 雅史(ふじたまさし)