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エンディングノート ドラマ13

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姉モノローグ(以下、M)「実家で一人暮らしをしている母と連絡が取れない。妹からの電話があったのは、昨日の晩のことだ」

妹  「ねえ、お姉ちゃん、お母さんと連絡が取れないんだけど」

姉  「携帯は?」

妹  「電源が切れているか電波の届かないところに―って。ずっと」

姉  「どのくらい?」

妹  「もう二週間―」

姉M「三年前に父を亡くしてからというもの、ふさぎ込むことの多かった母。少し心配だ。私は仕事が忙しく、母のことはみんな妹に任せきりだった」

妹  「それでね、ちょっと気になってることがあるんだけど…。一ヶ月前に実家に寄ったときにね、ダイニングのテーブルに本が置いてあって…」

姉  「本?」

妹  「エンディングノート、なんだよね」

姉  「何それ、エンディングノートって」

妹  「知らないの?ほら、最近よく本屋で売ってる―遺産のこととか、尊厳死のこととか、お葬式はどうするかとか、そういうのを書く…遺言状みたいなやつ」

姉  「ゆ、遺言状!?」

妹  「わかんないよ、わかんないけど…」

姉  「わかんないって、あんたが心配してるってのは、そういうことでしょ?」

妹  「お母さん、しばらく元気なかったし…ごはんも最近はスーパーで総菜買って済ませていたみたいだし…それに、私ももう長くないとかなんとか…言ってたような」

姉M「まさか―。背筋が冷たくなった」

妹  「ねえ、明日の朝、一緒に実家行ってくれない? 大丈夫だとは思うんだけど、私、怖くなっちゃって」

姉M「翌朝早く、私たちは隣町の実家に向かった。もしものときは、男がひとりいたほうがいいと思い弟も呼んだ」

姉  「おかあさーん」

弟  「窓は全部カーテンが閉まってるな。おい、お前玄関の鍵持ってんだろ」

妹  「う、うん、いま空ける」

妹  「私、怖いよ…」

姉  「いいから、行くよ」

姉  「おかあさーん」

弟  「母さーん。おい、大丈夫かー」

姉M「郵便受けには、何日分もの新聞が積み重なっていた。孤独死、という言葉が頭をよぎった」

弟  「寝室にも居間にもいないな」

妹  「台所もお風呂場もいない」

姉M「家の中は静かだった。きれいに整頓されている。私は思った。まるで、長い旅に出る人の部屋のようだ」

妹  「ねえ、お姉ちゃんこれ!」

弟  「エンディングノート…」

妹  「テレビの上にあった。どうしよう」

弟  「開いてみろよ」

妹  「ええっ、私無理。お姉ちゃんお願い」

姉M「エンディングノートの表紙を開こうとした、そのときだった」

三人「(驚く)!!!」

母  「あらー、あんたたち来てたの?」

妹  「お母さん!」

母  「何よ、揃いも揃ってこんな朝っぱらに。そんな真っ青な顔して」

妹  「生きてたの!?」

母  「何言ってんのよ」

姉  「お母さん、なんで電話出ないの!?」

弟  「心配したんだぞ」

姉  「ていうか何、そのリゾートな格好」

母  「あ、ちょうどよかったわ。はいこれ、お土産」

姉M「母は、友達とオーストラリアに旅行していたのだと言った」

母  「あんたたちに空港からメール送ったつもりだったんだけど。あら、送れてなかったのね、ごめんなさい。充電器忘れちゃって、わからなかったわ」

妹  「どれだけ心配したと思ってんの!」

姉M「その夜は、久しぶりに家族揃ってお寿司を取った。正月以外で家族みんなが集まるのは、父が亡くなってからはじめてかもしれない」

母  「私もねえ、人生にちょっと疲れていたのね。そろそろあんたたちに色々引き継ぐ時期なのかなって、それ、エンディングノートを買ってみたのよ。本屋さんで見つけて。そしたらね、なんだか逆に忙しくなっちゃって(笑)。銀行に行ったり、税理士さんと会ったり、書類の細かい字が読めないもんだから新しい老眼鏡作ったり。そしたら眼鏡屋さんでばったり、学生時代のお友達に会っちゃって。同窓会する? なんて話になったの。お世話になった先生が94歳でブリスベンに住んでるっていうから、会いに行っちゃおうかって、んもう、あれよあれよと…(笑)」

弟  「そういうの、ちゃんと言ってから行けよ」

母  「だってあんたたちうるさいじゃない。外国なんて心配だって言われそうだったから」

妹  「お母さんっ」

姉M 「その夜は、母のオーストラリアの土産話で盛り上がった。いままで聞かされなかった昔話もたくさん聞いた。学生時代の話も、父とのなれそめも。母はいきいきとしていた。母が買ったエンディングノートの最初のページには、自分の人生に起こったこと、つまり自分史を書き込めるようになっている。そのページは、まだまだ、余白がたっぷりと残っている」

製作・著作:BSN新潟放送
制作協力:劇団あんかーわーくす
脚本:藤田 雅史(ふじたまさし)

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