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おじいちゃんのバイト ドラマ10

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青年M(以下モノローグ)「僕は26歳。無職。日がな一日、実家にこもってネットをしたりテレビを見たりして暮らしている」

母親「ちょっとあんた、いい加減そろそろ仕事探したらどうなの」

青年「んー、まあそのうちね」

母親「家でそんなゴロゴロしてるなら、こないだお父さんが出張で買ってきた明太子、誰も食べないみたいだから、おじいちゃんちに届けてきてくれない?」

青年「えー、めんどくさいなー」

青年M「僕はいわゆる、ニートだ。大学を出て就職したが、急に働く意欲がなくなり、三年で仕事を辞めた。家にいると時々こうしてつまらない用事を頼まれる」

青年「おじいちゃーん?」

青年「…」

青年M「留守だった。どこかに出かけたのだろうか。おじいちゃんはずっと
一人暮らし。父も母も僕も、最近は滅多に会いに来ないので、どんな
生活をしているのかわからない。仕方がないので、僕は近くのコンビ
ニで立ち読みをしながらしばらく時間をつぶすことにした」

店長「いらっしゃいませー」

バイトの子「いらっしゃいませこんにちわー」

祖父「いらっしゃいませこんにちわー 揚げたての『唐揚げチキンちゃん』はいかがで―」

青年「…おっ、おじいちゃん!」

祖父「…!」

青年M「びっくりした。まさかおじいちゃんがコンビニでバイトしているなんて」

青年「いつから働いてんの?」

祖父「半年…一年くらい前かな…なあ、お父さんとお母さんには言わないでくれ」

青年「いいけど…。なんで? お金ないの?」

祖父「そういうわけじゃないけどな…」

青年「年金も入るし、働かなくても暮らしていけるんだから、別にバイトなんてしなくていいじゃん」

祖父「…。老人は老人らしくじっとしてろって言われてもなぁ」

店長「(近づいてきて)あ、田所さん、時間ですのでもう上がっていいですよ。お疲れさまでしたー。そちらは、お孫さん?」

祖父「そうなんですよ。見つかっちゃって」

店長「やめるなんて言わないでよ」

バイトの子「店長、私も帰りまーす。おじいちゃん、今日もお疲れちゃーん」

祖父「はいお疲れちゃーん」

青年M「おじいちゃんは、この店に馴染んでいた。バイトの制服も、意外と似合っている」

祖父「なあ、この店にいるとな、町のみんながどんな顔をしているか、どんな暮らしをしているのかよく分かるんだ。でも、家でじっとしていたら、わかんないんだよ」

青年「ここ時給いくら?」

祖父「720円」

青年「安っ」

祖父「お金じゃないんだ。新しい仲間もいる。生活にはりがある。楽しいんだよ、こうやってみんなとつながっているのが」

青年「…」

青年M「絶対内緒だぞ、とおじいちゃんは僕に手を合わせた。いきいきと働くおじいちゃんを見て、僕は少し羨ましかった。人とつながること。働くこと。何もせずに生きるさびしさなら、今の僕は痛いほどよくわかっている。僕は帰りがけ、ふと、置いてあった求人誌を持ち帰ることにした」

青年「おじいちゃん、今度また買い物しに来るよ。じゃあね」

祖父「またどうぞお越し下さいませー」

製作・著作:BSN新潟放送
制作協力:劇団あんかーわーくす
脚本:藤田 雅史(ふじたまさし)

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