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嫁の相続 ドラマ06

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嫁モノローグ(以下M)「私が夫と結婚し、夫の両親と同居をはじめたのが三十年前。義理の母が亡くなったのが二十年前。そして夫が交通事故で亡くなったのが十年前。それから今日まで、私はパートの仕事をし
ながら、年老いた舅の世話と介護に明け暮れる毎日だ」

妹  「お姉ちゃん、よくやってるよね。私だったら無理だわ、義理の父親との二人暮らしなんて。とっとと家出ちゃうけどね」

嫁  「だって、ほうっておくわけにもいかないし…」

妹  「で、相談って何? 何かあったの?」

嫁  「それがね…」

嫁M「先日、舅が見知らぬ男を家に連れてきた。昔勤めていた会社の後輩で、麻雀仲間だという」

妹  「お金の話?」

嫁  「そう、なんだか私にこそこそ隠れてお金の話をしていたのよ。ときどき電話もしているみたい」

妹  「えー、お姉ちゃんち、貯金あるの?」

嫁  「ないわよ全然。どこかに私の知らない口座でもあるのかしら」

妹  「えー、それ年寄り狙ったなんとか詐欺じゃないの? 大丈夫?」

嫁  「だから心配で相談してるんじゃない。しかも最近ね、ちょっと認知症がはじまったっぽいの」

嫁M「心配事はそれだけじゃない。ある日、仕事から帰ってきたら、玄関にうっすらと女物の香水の匂いがした。(舅が)いつも着ている薄汚れた背広からも、ときどき同じ匂いがする」

妹  「まさか…その歳で愛人?」

嫁  「そんなことないと思うんだけど…」

妹  「気をつけなよ、遺産を狙って年寄りに近づく女とか本当にいるらしいよ。ねえ、もしかして、その妙な男と香水の女って、グルなんじゃない?」

嫁  「どういうことよ…」

妹  「遺産狙いの犯罪組織…。まあ、よくわかんないけど」

嫁  「まさか…。それに私がいるんだから勝手に遺産を横取りするなんて、ねえ」

妹  「え、お姉ちゃん、もしかして知らないの?」

嫁  「何よ」

妹  「嫁って、確か法律では相続ができないんだよ。親も息子も孫もいない場合って、たしか舅が亡くなったら、その人の兄弟に相続権が移るんだよ。そういう親戚いる?」

嫁  「親戚…旦那の葬式のときに一度会った人だけど…確か茨城にいるわ」

妹  「あ、じゃあだめだわ。その香水の女が遺産狙いじゃなかったとしても、家も土地もその人のとこ行くね」

嫁  「うそ…」

嫁M「私に相続の権利がない? 妹には言わなかったが、このあいだ、舅が家の金庫から実印を持ち出したのを私は見た。私の知らないところで何が起こっているのか。胸騒ぎがする。私は、それからしばらくし
たある日、仕事を休んで、舅が出かけるのをこっそり尾行をしてみた」

嫁M「舅は喫茶店で若い女と待ち合わせをし、そこで珈琲を飲みながら短い時間何やら話し込んでいた。店を出てふたりは別れたので、私はその女のあとをつけた。こうなったら正体を突き止めてやる。女は駅前
の雑居ビルに入った。私は意を決してそのビルにかけ込み、女と同じエレベーターに乗り込んだ」

男  「あっはっは、それでここまで来られたと。いや、きちんとご挨拶せずに申し訳ありません。私、司法書士をやっておりまして、彼女はうちの事務所のスタッフです」

嫁  「司法書士?」

男  「ええ、(あなたの義理のお父さんとは)昔から麻雀クラブでご一緒させていただいていまして、いや、遺言状のことで、相談を受けていたんですよ」

嫁  「ゆ、遺言状ですか?」

男  「そう、認知症がこれ以上進まないうちに作りたいっておっしゃって。もしものとき、残された不動産や預金がきちんとあなたの手元に残るようにね。それから、認知症がこれ以上ひどくなったら、私の判断
で介護施設に入れるようにって。あなたでは、どんなに症状が悪化しても、最後まで介護なさるだろう
から、これ以上、あなたに迷惑はかけられない、あなたに甘えるわけにいかないって。あなたのことを
本当にやさしいお嫁さんだと感謝されていましたよ」

嫁M「ホッとしたような、寂しいような、うれしいような。私は複雑な気持ちで家路についた。血のつながっていない私と舅は、やっぱりどこまでも他人同士なのだろうか。そんなことを考えたら、一緒に暮らし
たこの三十年の日々の記憶が、鮮明によみがえってきた」

製作・著作:BSN新潟放送
制作協力:劇団あんかーわーくす
脚本:藤田 雅史(ふじたまさし)

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